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存続なるか 日の丸造船業
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東洋経済オンライン 2012/12/6 06:05 渡辺 清治
(http://shipphoto.exblog.jp/)

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 「今までの常識が通じない、大変な時代になった」。川崎重工業の船舶海洋カンパニーを率いる神林伸光・常務取締役の偽らざる心境だ。

 川重の造船部隊は今年6月末、6年ぶりにLNG(液化天然ガス)運搬船の受注を獲得した。関西電力が輸入するLNGを運ぶための船で、関電と長期運行契約を交わした商船三井からの発注だ。LNG船は商船の中でも工事規模が大きく、金額は1隻で150億円を下らない。川重にとってうれしい受注のはずだが、神林常務の表情は険しい。

 1年前、川重はLNG船を複数受注する絶好のチャンスを得た。大阪ガスが2隻のLNG船新設を決め、発注先の選定を進めていたからだ。LNG船建造は韓国が主役になって久しいものの、日本のユーザーに限れば、長年の信頼関係がある国内造船所への発注が今も常識だ。しかも、関西発祥の川重は大ガスと取引関係が深く、大ガスのLNG船は主に川重が手掛けてきた。

 ところが、川重の期待に反し、実際に仕事を請け負ったのは三菱重工業だった。しかも、2隻ともだ。大ガスからの受注に際して、三菱重工は新設計のLNG船を投入。球状のタンクを丸ごと覆った新構造で走行時の空気抵抗を減らしたほか、内燃機関なども全面的に見直し、同社の従来型船より燃費性能を2割以上改善させた。そして、この最新鋭のLNG運搬船を、川重より安い価格でぶつけてきたのだ。

 三菱重工の造船事業は1000人以上もの開発技術者を抱え、平均給与水準も高い。固定費負担が大きい分、本来なら、造る船の値段は他社より高くなる。「三菱の出してくる見積額がいちばん高い」(国内の大手海運役員)。それは海運・造船業界における長年の常識だった。

 大ガスで失注した川重は、「今回は何としてもうちが全部取る」と決死の覚悟で関電向けLNG船の受注交渉に臨んだ。発注されるLNG船は2隻で、競合相手は再び三菱重工。お互い一歩も引かず、価格競争は熾烈化。最終的に関電案件は川重、三菱重工が1隻ずつ受注する形で決着したが、両社とも採算割れの赤字受注だったと見られている。

 日本を代表する重工2社による、身を削るかのような受注争奪戦。その背景にあるのは、迫り来る「2014年問題」への強い危機感だ。



■ 船腹過剰で受注激減 仕事払底の危機が迫る

 近年、世界の造船業は空前の好景気に沸いた。中国爆食などを背景に2000年代半ばから海運市況が高騰し、世界中の海運会社、船主が競って新船の仕込みに走ったからだ。海運バブルが造船バブルを呼び込み、それまで年間3000万総トン(総トンは船の容積を表す単位)前後だった新船需要は激増、ピークの07年には1・7億総トンにまで膨れ上がった(下グラフ参照)。

 当時、韓国勢の追い上げで劣勢に立たされていた日本の造船業界は、この“神風”でにわかに活気を取り戻す。国内外から次々に舞い込む新船建造の依頼。各社とも受注残(=手持ち工事)は建造能力の数年分にまで積み上がり、たちまち国内の造船所はどこもフル操業に。10年には初めて日本の竣工量が2000万総トンの大台を超え、12年も国内造船所の稼働率は依然高い。

 にもかかわらず、日本の造船業界は今、暗いムードに包まれている。なぜか。将来の飯の種となる新規の受注が激減しているからだ。リーマンショック前に発注された大量の新船がこの2〜3年で続々と竣工した結果、海運業界はたちまち船腹過剰に陥り、運賃市況が暴落。その余波が造船業界にも及び始めたのである。

 日本造船工業会によると、国内の主要造船会社による11年の新船受注量は770万総トンと前年から4割近く減少。リーマンショック直後の09年実績(850万総トン)をも下回り、過去15年間で最低水準にとどまった。12年に入っても同様の状況が続いているため、手持ち工事量は目に見えて減っている。6月末時点の受注残は約3000万総トンとピークだった07〜08年当時の半分弱で、しかも、その大半が13年末までに竣工・引き渡しを迎える。

 つまり、このまま新規の仕事が取れずに受注残の取り崩しが進めば、「国内造船会社の多くで14年途中に仕事が底を突いてしまう」(国土交通省の今出秀則・海事局船舶産業課長)のだ。これが日本の造船業界に迫る“危機”の正体、いわゆる「2014年問題」だ。

■ 船価はピークの半値 日本勢は円高も打撃

 すでに一部の造船所では、危機が現実のものになりつつある。

 住友重機械工業の造船子会社、住友重機械マリンエンジニアリング。石油タンカーを専門とする同社は、2年近くにわたり新規受注が途絶えている(10月末現在)。契約どおりに今年度5隻を引き渡すと、残る手持ち案件はわずか1隻のみ。来年度以降の大幅な操業縮小は避けられず、横須賀造船所の正社員約500人の大半をグループ他事業へ配置転換するなどの対応策を検討中だ。

 何しろ、業界の受注環境は悲惨な状況だ。量の減少に加え、船価は数年前の半値近くにまで下落(下グラフ参照)。金額だけを見るとバブル前の水準に戻っただけのようにも見えるが、製造原価の過半を占める鋼材価格は当時の倍近い。今の船価は、コストの安い中国、韓国勢でさえ赤字になる水準だ。

 さらに日本勢を苦しめるのが昨今の円高だ。造船所の品質と生産性は現場作業員の技能・熟練度に左右されるため、造船業界は他の製造業のような海外生産移管が進んでいない。一方、海運会社や船主からの建造発注は米ドル建てなので、円高進行はまさに死活問題である。

 「こんな相場では、(受注を)取れば取ったで大きな赤字が出る。仕事欲しさに無理して取れば、自分で自分の首を絞めることにもなりかねない」。大手造船の幹部はこうこぼす。将来の操業対策と受注採算の板挟みで、各社は頭を悩ませている。

 振り返れば、日本の造船業界は、1970年代、80年代と2度にわたる「造船大不況」期を乗り越えた。しかし、当時と今では、競争環境がまるで違う。当時の日本は新船竣工量で5割以上のシェアを誇り、世界最大かつ最強の造船国だった。その後、90年代に韓国、さらに00年代半ば以降は中国も急激に台頭。すでに日本は竣工量で両国に抜かれ、シェアも2割程度にまで下がっている。
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■ 需給ギャップは深刻 韓・中との競争熾烈に

 こうしたアジア勢の設備新設・拡張によって、業界の供給能力(=建造能力)は一挙に膨れ上がった。その規模たるや、年間1・1億総トン超。一方、12年の新船発注量はせいぜい三千数百万総トンと見られており、供給能力は足元の需要の3倍にも及ぶ計算だ。「異常としか言いようがない。再び造船バブルでも起こらないかぎり、この需給ギャップは到底埋まらない」(日本造船工業会の桐明公男・常務理事)。

 新規の需要が細る中、すでに設備を持て余した中国、韓国勢は、採算度外視の受注に走っている。日本の造る船は品質や省エネ性能で勝るため、必ずしも同じ価格にまで下げる必要はないが、「限られた仕事に日、韓、中の造船所が殺到しているので、発注側から容赦なく値切られる」(三井造船の岡田正文・常務取締役)。ライバルの数は、過去の第1次、第2次不況時の比ではない。

 にわかに業界の危機感は高まり、生き残りに向けた新たな動きも出始めている。

 「ある程度の規模なしには、韓国、中国勢と戦えない。規模の効果で資材調達費を削減する一方、省エネ船の開発により多くの技術者を投入する」。今年12月に合併する、IHIマリンユナイテッドとJFE系のユニバーサル造船。新会社の社長に就くユニバの三島愼次郎社長は、合併会見で危機を強くにじませた。

■ ユニバ、IHIマが合併 三菱重は客船を柱に

 両社は08年春に合併の検討開始を表明。狙いは需給逼迫下での建造能力拡大にあったが、思惑の違いなどからやがて実務協議は途絶え、合併構想は立ち消えに。その後、海運バブル崩壊で事業環境は激変、11年秋に協議を再開して合意に至った。当初の合併検討表明から4年の間に、再編の目的は「成長・拡大」から「生き残り」へと様変わりした。  一方、独自の戦略を打ち出したのが三菱重工だ。コンテナ船など汎用領域の一般商船から撤退し、今後は技術的な強みが生かせる領域に経営資源を集中させるというのだ。その柱に位置づけるのが、冒頭にも登場したLNG船、そして国内では異例とも言える大型客船である。

 同社は昨年秋、クルーズ客船の世界大手、米カーニバル・グループから客船2隻の受注を獲得。定員3000人以上の超大型客船で、2隻合わせた受注金額は推計で1000億円前後に上る。三菱重工では02年に建造中の大型客船が炎上、造船事業は巨額の赤字を出し、以降は受注も途絶えていた。約10年ぶりとなる今回の受注。尊田雅弘・客船プロジェクト室長は、「客船をコア事業にするという明確な意思決定の下、会社として総力を挙げて取りに行ったからこそ受注できた」と語る。

 大型客船は部品総数が1000万点と膨大で、ピーク時には3000人規模の作業員を要する。工事が大掛かりで工程管理などが非常に難しいため、一般商船と違ってアジア勢の姿はなく、独マイヤー、伊フィンカンチェリなど客船を専門に手掛ける特定の欧州企業が一手に建造を担っている。こうした欧州勢の中に割り込み、独自の柱に育てようというわけだ。

 その三菱重工の造船部隊を率いる原壽・常務執行役員(船舶・海洋事業本部長)は静かに、そしてはっきりとこう言い切る。「これから先は、われわれ日本の造船業にとって過去最大の試練になる。何も手を打たなければ死ぬ。それは当社の造船だって例外じゃない」。

 国内勢には平均1・5年分の仕事(=受注残)がまだあるが、それはあくまで“量”の話。造船バブル時に受注した好採算の船はほぼ一巡し、今後は船価暴落後の受注案件が工事の大半を占める。目先の操業は維持できても、大幅な採算悪化は避けられず、来13年度には赤字転落組が続出する見通しだ。大氷河期は目前に迫っている。

 (週刊東洋経済11月17日号)










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